東京・大井町駅のすぐ近くにある「健康麻雀じゃんけん」は、「お金を賭けない、お酒を飲まない、煙草を吸わない」という3つの約束を掲げた麻雀店です。店内では、シニアの方々を中心に、若い世代も交じりながら、いくつもの卓で楽しそうに麻雀が打たれています。
運営するのは、古閑真(こが・まこと)さん。33歳でこの店を立ち上げ、コロナ禍も切り抜けながら、18年にわたって「健康麻雀じゃんけん」を続けてきました。
なぜ健康麻雀の店を始めたのか。シニアの方々にとって、この場所はどのような意味を持っているのか。そして、古閑さんが次の10年に向けて描いている夢とは。お店への思いと、これまでの歩みを聞きました。

目次
なぜ“健康麻雀店”を立ち上げようと思ったのか
“健康麻雀”という言葉は、まだ聞き慣れない方もいるかもしれません。古閑さんは、なぜ健康麻雀に取り組もうと思ったのでしょうか。
もともと不動産関係の仕事をしていましたが、30歳を過ぎたら独立しようと決めていました。何をやろうかいろいろ探していたとき、母から「健康麻雀というのがあるよ。やってみたら」と言われたんです。
会社を辞めてから、半年間くらい大きな健康麻雀店でアルバイトをさせてもらったり、開業する場所やお店を探したりして、修行のような期間を過ごしました。
古閑さんご自身も、もともと麻雀がお好きだったのですね。
麻雀は好きでした。ただ、正直に言うと、賭けないでやる麻雀が面白いのかなと思っていたんです。
でも、修行中に最初に行ったお店で、おじいちゃん、おばあちゃんたちが一生懸命麻雀をやっていて、それがすごく楽しそうだったんです。和気あいあいとおしゃべりをして、お昼ご飯を一緒に食べていて、とてもいい空間だなと思いました。
そのときに、「お金を賭けない、お酒を飲まない、煙草を吸わない」という健康麻雀の良さを実感しました。煙草や賭け、朝までやるといった麻雀のイメージが、クリーンになっていく感じがありました。
古閑さんはその経験をもとに、18年前、33歳のときに「健康麻雀じゃんけん」を開業しました。
健康麻雀で経営が成り立つという勝算は、どの程度あったのでしょうか。
団塊の世代がリタイアしてくると、彼らの遊ぶ場やコミュニケーションの場として、健康麻雀は可能性があるのではないかと考えていました。団塊の世代の方たちは、若いころに麻雀やボウリングにはまっていた人が多いですから。
それと、こういう事業だったら社会貢献にもなるということも大きかったですね。あまりお金には執着がないんです。もちろん、店を運営していくためには売上も必要ですが、「儲ける」より「やりがいのある」ことをやりたいと考えています。お金は後からついてくるものだと教えられてきましたし(笑)。
順調に回っている「健康麻雀じゃんけん」の仕組み
普通の麻雀店と「健康麻雀じゃんけん」は、具体的にはどのようなところが違うのでしょうか。
1日10時から17時までで、料金は1,750円です。会員制はとっていません。1回来ていただいて、問題がなければ、その後も引き続き来ていただけます。
皆で楽しむゲームなので、協調性のない方や、他の方に迷惑をかけるような方はお断りしてしまいます。ここは譲れない点です。
朝から夕方まで通しなのですね。食べ物や飲み物はどうするのでしょうか。
基本的に1日通しです。もちろん、途中で体調が悪くなったりしたら、抜けることはできます。
食事、飲み物、おしぼりなどは一切出しません。お酒以外の飲み物を自由に持ち込んでもらっています。昼食は、一斉に麻雀を止めて、麻雀卓にシートを敷いて、それぞれが持ってきたものをピクニックみたいに食べてもらっています。
皆さん、私たちのためにおにぎりを作って持ってきてくれたり、パンを買ってきてくれたりと、差し入れもたくさんしてくださいます。
4人そろって来る方ばかりではないと思います。組み合わせはどうしているのですか。
仲間4人でいらっしゃるお客様もいますが、そうでない場合はこちらで組み合わせを考えます。午前と午後でメンバーの入れ替えもします。
組み合わせは、麻雀の能力だけでなく、その方のキャラクターも考えます。たとえば、場を盛り上げるタイプかどうかなどです。組み合わせ次第で楽しめるかどうかが決まってくるので、組み合わせを考えるのはなかなか大変です。
日によっては、4人の組み合わせがぴったりそろわないこともありますよね。
お客様の中に「サポーター」という方を作っています。たとえば17人の方が来るという場合は、サポーターの方3人に声を掛けます。「無料でいいので、今日来てくれますか?」とお願いできる方を何人かそろえているんです。
経営的には、最初からうまく回っていたのでしょうか。
はじめはうまくいきませんでした。相場の1日2,000円という価格設定で始めたのですが、なかなかお客様が集まらなくて、値上げしないと厳しいという状態になりました。
それで2,100円、2,500円と値上げをしたら、お客様がどんどん減ってしまって。4年目くらいに、もう店を畳もうかなとまで思ったのですが、価格を半値の1,300円に下げてみたんです。
そうするとお客様が増えて、対戦相手が増えると楽しいということで、さらにお客様が増える好循環が生まれました。
シニアはお金を持っているという勝手なイメージがあったのですが、実際は違っていて、年金で生活しているので出費を抑えたいのだと気づきました。価格を安くしたら、シニアの方々の間で口コミでどんどん広がっていきました。

「健康麻雀じゃんけん」でシニアが得ているもの
店内には若い方もいらっしゃいますが、やはりシニアの方が中心なのでしょうか。
全部で11卓あり、いつもほぼ埋まってしまいます。平日は、やはりリタイア後のシニアの方が多いですね。平均で75歳手前といったところです。
7割が女性で、男性のほうが少ないんです。男性は普通の麻雀店に行くケースもあるのかなと思います。女性の場合は、麻雀教室に通っていた方が来るケースが多いようです。
シニアの皆さんにとって、ここはどのような場所なのでしょうか。
教室のような感覚で、曜日を決めて通う方も多いです。たとえば、月曜日は病院で、火曜日は「じゃんけん」に行く、というふうに生活のリズムになっています。中には毎日来る方もいますし、週3回通う方もいます。
人と対戦して楽しむ場所なので、皆さん、身なりをきちんとして出かけようとか、お化粧しておこうとか、気遣われていますね。出かける場所があるというのは、シニアの方にとって良いことだと思います。
娘さんや息子さんから「出かけたほうがいい」と勧められて来るシニアの方もいます。娘さんや息子さんが一緒に見に来て、ここなら安心ということで通い始める方もいます。
皆さん、ここでどのように過ごされているのですか。
この店は、麻雀しながらおしゃべりしてもいいことにしているんです。もちろん、極端なおしゃべりは困りますが、麻雀をきっかけにコミュニケーションを楽しんでもらっています。
麻雀卓を囲むメンバーも、たとえば大学生と90歳の女性を組み合わせることもあります。普通、大学生が90歳の女性と接する機会は、家庭内でおばあちゃんと孫という関係くらいかもしれません。
でも麻雀は、これだけ年齢差があっても、共通の楽しみを提供してくれます。麻雀という共通の趣味をベースに、さまざまな年齢や環境の方たちが、わいわいと一緒に楽しい時間を過ごす場になっています。
それに麻雀は、将棋などと違って、実力だけではなく運の要素も大きいので、いろいろな人が一緒に楽しみやすいゲームだと思います。
健康麻雀には、ほかにもシニアの方にとって良いことがありそうですね。
ゴルフやスポーツを楽しんでいたシニアの方が、身体が思うように動かなくなって、家でテレビを観るだけになってしまうようなことも多いと思います。だったら、ここに来て、麻雀を始めてみるのもいいんじゃないかなと思います。
何より、麻雀自体が頭を使うので、認知症予防になると思います。それに加えて、ここに来れば人に出会う機会があり、友だちもできます。人と接するということは、シニアの方にとって、楽しいのはもちろんですが、いい刺激になると思います。
ちなみに、今日は93歳のおばあちゃまもいらしています。最近はバスで来られていますが、少し前までご自宅から歩いて通われていました。麻雀を打つスピードも速くて、すごいんですよ。
古閑さんが描く、次の10年に向けての夢
軌道に乗っている「健康麻雀じゃんけん」ですが、次のステップへ進みたいという思いもあるそうですね。
この店をやってみて、あらためて「みんなの居場所になっているな」「想像していたよりいい仕事をしているな」と手ごたえを感じています。やはり、私は社会課題を解決することに関わることをやっていきたいと考えています。
シニアが健康麻雀をやっている場所と同じ空間の中に、待機児童の子どもが遊ぶ場所があったり、いろいろな人同士がコミュニケーションをとれるカフェがあったりと、多世代の人たちが交流できればいいなと。
人と人が直に触れ合えるような場が、とても減ってきていると実感しています。まだ夢の段階なんですけれど、解決するにはどうすればいいか、探しているところです。
現実は厳しいかもしれませんが、小さなことから少しずつ始めて、みんなの居場所をつくっていきたいなと考えています。人がついてきてくれれば、お金もついてくるんじゃないかと思っています。
店舗のご紹介 健康麻雀じゃんけん 品川区大井1丁目50-15桜井ビル3階(JR大井町駅 西口徒歩3分)

編集後記
リタイア後のシニアにとって、自宅の外に新しい居場所を見つけることは簡単ではありません。「健康麻雀じゃんけん」は、麻雀をきっかけに、楽しさと交流の場を提供しています。
お店が長く続いている背景には、料金や組み合わせの工夫だけでなく、「儲けよりやりがい」という古閑さんの姿勢があるのだと感じます。シニアだけでなく、多世代が交流できるような居場所づくりへ。難しい挑戦かもしれませんが、少しずつでも夢が実現していくことを願っています。
(取材・起稿 谷口明美)
