「苦手」だった“片づけ”を「得意」に変えたことで、人生が豊かになった!整理収納アドバイザー・兼子久実さん

今回、ご登場いただくのは、整理収納アドバイザーの兼子久実さん(『片づけの扉』代表)。兼子さんは、もともと“片づけ”が大の苦手だったそうです。専業主婦として暮らす日々の中で、うまく片づけられないという悩みはとても大きかったそうですが、あるきっかけを得て、“片づけ”の悩みを解決できたのです。そればかりでなく、42歳から60歳を迎える現在にいたるまで、整理収納アドバイザーとして活躍しています。

兼子さんに、“片づけ”をめぐってどのような変化があったのか、また、それにとどまらず、人生の整理整頓までをどのように果たしたのか、などのお話をお聞きしました。

整理収納アドバイザーの兼子久実さん

“片づけ”ができないことで悩んだ日々

まず、ご出身地など、これまでのご経歴を簡単に教えてください。

出身は江差追分が有名な北海道の江差という小さな町です。

その後、札幌の大学へ行き、富士メガネに就職しました。富士メガネは、社長がアメリカで日本人初のオプトメトリスト(検眼士)となった方で目とメガネにこだわりが強い会社です。社員教育がしっかりしていて、そこで接客の基本を学びました。

10年間そこで働き、子どもができて専業主婦となりました。

専業主婦としての日々はいかがでしたか。

子どもが欲しかったですし、楽しかったはずなのですが、“片づけ”ができなくて、生活が回らないというのが現実でした。

“片づけ”ができないとは、具体的にはどういうことなんですか。それにともなって、どんなことが起きるのでしょうか。

実家では、母がとてもきれい好きでいい環境で育っているんです。当然自分もきれいにできるだろうと思い込んでいました。結婚後初めの3年間、義理の両親と一緒に暮らしていたので、その時も気付かなかったんです。

義理の両親の家を出てから、生活がうまく回らなくなりました。子どもの成長とともにモノが増え、いつも探し物をしていました。私はもう頭がいっぱいいっぱいだったんです。“片づけ”ができない人はモノが多すぎるということに気付いていないので、「収納ボックスを増やせば片づく」と考えて、さらにどんどんモノを増やしてしまうんです。それだけではなく、モノがいっぱいの人って、人から頼まれると断れずスケジュールもいっぱいになっていることが多いんです。

私には子どもが二人いて、親子劇場というのに参加していたのですが、必要なお弁当を用意できなかったことがありました。とりあえず、手近にあった食パンとジャムとスプーンを持って行って、現地で食べさせればいいかという感じで、それ位時間の段取りができなかったんです。さらに、ジャムの瓶だと思っていたものが、前日に作ったみりん醤油で、子どもたちは食パンだけを食べるというオチまでついてしまって。子どもたちのことは愛しているし、きちんとしてあげたいのに、できない自分に毎日落ち込んでいました。

相当深刻な状態ですね。

はい、収納に入りきらないモノが散乱していて、子どもたちに「パパが帰ってくるから片づけて」と言うのが口癖でした。きれい好きの夫にとってもかなりストレスだったと思います。ある日、夫が車を運転しながら、「家の中もぐじゃぐじゃだし、つまんないし、もう別れたいんだけど。」と言ったんです。夫にしてみれば本気ではなかったかもしれませんが、私にとってはすごく大きな衝撃でした。当時は追い詰められていて、私の心の状態は最悪でした。

『家庭生活カウンセラー』の資格を取得することで、“自分”が見えてきた

そんなどん底の状態から、どのようにして脱却していったのですか。

本を一生懸命読んだりしても、全然“片づけ”はできるようにならなくて。ちょうどその時に、市で運営している家庭生活カウンセラーの講座を知りました。臨床心理士、産業カウンセラーなど様々な専門家から、家庭生活や心のことを学べる講座でした。なんとかしなければと思い、子どもを友人に預け、足掛け3年、256時間の授業を受け、家庭生活カウンセラー三級、二級と資格を取りました。

その経験がすごく良かったんです。自分の価値観やどう生きたいのかという軸を問い直すことができました。私の場合、母親や妻はこうあるべきだという理想が高すぎて、できていない自分とのギャップに苦しんでいたこと、また、そのことが自己否定感に繋がっていたということがわかりました。それを自覚してからは、自分を責めることがなくなり、穏やかな気持ちにはなったのです。

ただ肝心の“片づけ”については相変わらずできないままだったんです。

“片づけ”については、何か意識が変わるようなきっかけがあったんでしょうか。

夫の転勤で帯広に引っ越したのですが、その時のお隣さんからのご縁で、道東では初めての整理収納アドバイザーの松井香織さんと出会いました。この出会いが私の人生を変えることになりました。長い間悩んでいた“片づけ”を、お金をかけてでも直したいと思ったのです。当時、主婦だった私にとっては大きなチャレンジでした。

こんなエピソードがあります。松井先生とキッチンの片づけをしている時のことです。松井先生がお玉を手に「このお玉、好きですか?」と聞いてきました。お玉に好きも嫌いもないんじゃないかと思ったのですが、先生から「自分の好きなモノに買い替えていいんですよ」と言われ、ハッとしました。私には買い替えるという発想がなかったのです。毎日そう問いかけられているうちに、「この家には私の好きなモノがあまりないのかもしれない」と思い始めました。よく考えてみると、実家から持ってきたモノや、貰いモノばかり。自分で選んだモノがとても少なく、自分でこの家をつくっている、暮らしをつくっているという感覚がなかったのです。

その時、家庭生活カウンセラーで学んだ「自分の軸を持つ」ということと、“片づけ”が初めてつながりました。自分で考え、自分の価値観でモノを選ぶ。その意識が変わったことが、私にとってとても大きかったです。

当時を振り返る兼子久実さん
“動作指数”を減らす収納の工夫について語る兼子さん

具体的にはどのようなことを実践したのですか。

“動作指数”という考え方を教えていただきました。食器棚の場合、棚を「右手で開ける」で動作1、「左手で食器を出す」で動作2となります。取り出したい食器が奥にあると、手前の食器を出して、奥の食器を出し、今度は手前の食器をしまうという風に動作指数が増えます。私の場合、食器がぎゅうぎゅうに入っているので、「動作指数がすべてにおいて多すぎです」と言われたんです。私の行動動線に合わせて、この動作指数を徹底的に減らすように収納を見直していただきました。そうすると、食器の数が減り、必要なモノがすぐ出せるようになりました。使いやすくなっただけでなく、小さな動作が減ったことで時間短縮にもつながりました。こうしてキッチンから整理収納の技術を教えていただきました。

最終的には、半年をかけ20時間以上かかりましたが、家中で300キロ以上のモノとサヨナラしました。そうすると家がスッキリしただけでなく、頭も気持ちも軽くなりました。

何より大きかったのは、「自分にとって好きなものは何か、大切なことは何か」を考えて、自分で選択するようになったことです。私にとって“片づけ”は、単にモノを減らすことではなく、「自分はどう生きたいのか」を、日々の暮らしの中で選び直していくことだったんです。何かに誘われても、自分が行きたくなければきちんと断る。モノだけではなく、時間の使い方や人との付き合い方についても、自分の軸で選べるようになっていきました。

“片づけ”ができるようになると、生き方も変わってくる

笑顔の兼子久実さん(屋外)
“片づけ”を通じて、家族との関係も変わっていったと笑顔で語る兼子さん

他の面でも、何か変化はありましたか。

“片づけ”が進むにつれ、私自身の思考が変わり、暮らしにも余裕ができたことで、夫との関係性もかなり改善されていったんです。頭の中や暮らしが整ってくると、家族の変化にも早く気づけるようになってきました。例えば、夫が疲れていそうだなと思ったら、いつもの第三のビールではなく瓶ビールを出してあげる。子どもには、少し意識して優しく声をかける。どれも本当に小さなことですが、以前よりも、家族に思いやりや愛情を伝えられるようになったと思います。

さらに、今度は他の方の“片づけ”をお手伝いするようになったんです。それがまた、楽しくて……。自分自身が“片づけ”によって変わった経験があるからこそ、誰かの暮らしや生き方が変わるきっかけを届けられることが、私にとって大きな喜びになっています。

“片づけ”ができない側から、“片づけ”を手伝う側になるとは、大きな変化ですね。

松井先生から勧めていただき、整理収納アドバイザーの資格を取得しました。その後、5年ほど松井先生のアシスタントを務め、経験を積んでから独立しました。

帯広では、自分で車を運転して、ご依頼いただいたお宅へ片づけに伺っていました。口コミで少しずつ広がり、次第に遠方からもご依頼をいただくようになりました。さらに、家庭教育学級や市の生涯学習、企業の新入社員向け研修などで、セミナー講師を務める機会もいただくようになりました。

お仕事を始めたころは、まだお子さんに手がかかる時期だったのではないですか。

中学生くらいで、まだちょっと手がかかるというころでした。でも、夫がすごく協力的だったんです。夫は「家事は妻の仕事」という考え方の人だったのですが、料理から始まって、最終的には、家に帰ると、料理がしてあって、お風呂が沸いていて、洗濯物が畳んであってというところまでやってくれるようになり、本当にありがたかったです。

現在のお仕事の状況を教えてください。

現在は、夫の転勤で千葉に拠点を移しました。整理収納アドバイザーとして訪問サポートをおこないながら、家庭生活カウンセラーとして心理面のサポートもしています。また、セミナー講師としても活動しています。

生活はそれぞれで十人十色です。例えば、洋服一つとっても、きれいに畳んで収納したい人もいれば、ハンガーに掛けておきたい人もいます。だからこそ、その人の暮らし方や価値観に合った方法を一緒に見つけることが大切だと思っています。お客様の表情が変わり、家の空気までクリアになっていく様子を見られるのは、とても爽快です。これからも、この仕事を続けていきたいと思っています。

シニアの“片づけ”には、気力・体力、時には財力も必要

最後に、シニアにとって“片づけ”(整理収納)にどのような意味があるか教えてください。

シニアの方にとって、整理収納は、気力や体力、モノの処分には財力も必要になります。そのため、元気なうちに取り組んでおくことが大切だと思います。

シニアの方の場合、バケットリスト(良い終焉を迎えるためにやっておきたいこと)に、“片づけ”が入ることが多いですね。そういう方には、整理収納を人生の宿題だと思って、できるだけ早く取り組んでいただきたいです。その後の人生が軽く、より楽しくなっていきますので。“片づけ”は、実は前頭前野や海馬を使う脳トレにもなります。また、動線を確保して生活しやすい環境を整えることで、より安心・安全に暮らせるようになります。

一方で、「片づけない」という選択もあると思っています。その場合は、捨ててほしくないモノだけを集め、できれば小さめの段ボール一つか二つにまとめておく。そして、残りのモノは、自分が亡くなった後に処分してほしいと、あらかじめ伝えておくのです。ただし、処分してくれる人へのお礼や費用は、できるだけ用意しておいたほうがよいと思います。

残りの人生をどう暮らしたいのか。持ち物を選びながら、自分にとって本当に大切なものを見極め、これからの暮らしを楽しんでいきましょう。

兼子さんご登壇、暮らしの未来設計図セミナーのご案内

兼子さんに、シニアライフデザイン.comで開催する「50歳からの未来設計図セミナー」、12月9日の「暮らしの未来設計図」に講師としてご登壇いただくことになりました。
今回のインタビューをご覧いただき、「50歳からの人生、自分は何が必要かを見極めたい」と思った方はぜひご参加ください。

編集後記

今回の兼子さんのお話から、“片づけ”とは、自分自身の生き方と向き合うことだ、という発見がありました。“片づけ”って、奥深くて、面白いですね。そんな視点で片づけてみたら、自分らしく居心地のよい空間がつくれそうです。

“片づけ”の悩みに真摯に向き合い、乗り越えた経験があるからこそ、兼子さんの整理収納アドバイザーとしての今日のご活躍があるのだと思います。これからも、是非とも多くの方の“片づけ”の悩みに寄り添っていただきたいです。

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この記事の編集・執筆

シニアライフデザイン.comを運営する株式会社アンカーの編集部です。50代・60代以降の働き方、暮らし、年金、健康、学び、地域とのつながりに関する情報を、一次情報や公的資料を確認しながら発信しています。