「もう年齢的に、突拍子もないことはしにくい」。そんなふうに、自分で自分の行動範囲を少し狭めてしまうことはありませんか。20代の社会人として働いている私から見ると、50代、60代、70代の方々は、経験も人とのつながりもたくさん持っている世代です。だからこそ、もう一度「おもしろそうだから、やってみる」と言える人は、とてもかっこよく見えます。
今回紹介する宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』は、まさにその気持ちを思い出させてくれる一冊です。主人公の成瀬あかりは、周囲の目を気にしすぎず、自分が決めたことにまっすぐ向かっていきます。舞台は滋賀県大津市周辺。閉店する西武大津店、地域の夏祭り、M-1グランプリへの挑戦など、日常の中にある出来事が、成瀬の行動によって少し特別なものに変わっていきます。

目次
話題作でありながら、世代を問わず読める理由
新潮社の公式書誌によると、本書は2023年3月に刊行された単行本で、著者は宮島未奈さんです。第39回坪田譲治文学賞、第21回本屋大賞など、複数の賞を受けた作品としても知られています。話題作というと若い読者向けに感じるかもしれませんが、本書の魅力は流行だけではありません。
成瀬の行動は、効率や損得で説明しきれません。「二百歳まで生きる」と言う。閉店間近の百貨店に通う。漫才に挑戦する。周囲から見ると少し不思議でも、本人の中では筋が通っている。その姿は、人生後半を迎える人にとっても刺激になります。年齢を重ねるほど、失敗しないことや無難であることを選びやすくなります。でも、日々をおもしろくする力は、若さだけのものではありません。
20代の私がこの本をシニア世代にすすめたいのは、「若い主人公の物語だから若者向け」と閉じてしまうのがもったいないからです。むしろ、地域、家族、友人、仕事、これからの時間の使い方を考えている人ほど、成瀬の自由さにハッとする部分があるはずです。
若い世代は、成瀬の大胆さを「おもしろい」と受け取るかもしれません。一方で、シニア世代はその背景にある「自分の町で、自分の時間をどう使うか」という問いをより深く受け止められるのではないでしょうか。同じ作品でも、読む世代によって見える場所が変わる。そこも、この本をすすめたい理由です。
読む前に知っておきたいこと
本書は、公開されている新潮社の紹介文や試し読みを見る限り、連作短編の形で、成瀬あかりという人物の周囲にいる人たちの視点も交えながら進む作品です。強い教訓を押しつける自己啓発書ではありません。だからこそ、肩の力を抜いて読めます。
シニアライフデザイン.comで紹介する本として見ると、注目したいのは「地域で生きる楽しさ」です。有名な観光地や大事件だけでなく、地元の店、学校、祭り、友人との会話が物語の大切な要素になっています。自分が暮らす町にも、まだ見落としているおもしろさがあるのではないか。読み始める前から、そんな視点を持たせてくれます。
もう一つは、人にどう見られるかより、自分が何を試したいかを大事にする姿勢です。定年後の活動、地域参加、学び直し、趣味の再開。どれも、最初は少し照れくさいものです。けれど、成瀬のように自分なりの理由で一歩踏み出す人を見ると、「私も小さく始めてみよう」と思いやすくなります。
また、成瀬の行動は大きな成功だけを目指しているわけではありません。途中で周囲が驚いたり、結果が思い通りでなかったりしても、自分で決めたことをやってみる。その軽さは、完璧な準備が整うまで動けない人にとって、よいほぐし役になります。

こんな人にすすめたい
まず、最近の話題作を読んでみたいけれど、何から手に取ればよいか迷っている方に向いています。受賞歴があり、出版社の公式情報や試し読みも確認しやすいため、入口として選びやすい一冊です。
次に、定年後や子育て後の時間をどう使うか考えている方にも合います。成瀬は、誰かに評価されるためだけに動くのではありません。自分で決めた目標を持ち、その過程を楽しんでいます。その軽やかさは、人生後半の活動を考える人にとって、よい刺激になります。
そして、若い世代との会話のきっかけが欲しい方にもおすすめです。20代、30代が読んでいる本をあえて手に取ると、世代の違いだけでなく、意外な共通点も見つかります。「この主人公、どう思った?」という話題は、家族や職場、地域の読書会でも使いやすいはずです。
親子や孫世代との会話では、つい健康、仕事、将来の心配が中心になりがちです。そこに一冊の小説が入ると、会話の角度が少し変わります。登場人物の行動をめぐって、「自分ならどうするか」「昔ならできなかったけれど今ならやってみたいことは何か」と話せるからです。
これは読了済みの書評ではなく、出版社などが公開している情報に基づく紹介記事です。作品の細かな評価は、ぜひ実際に手に取って確かめてください。ただ、若い世代からシニア世代へ一つだけ伝えるなら、この本は「いくつになっても、変なことを本気でやっていい」と背中を押してくれる物語です。自分の町で、自分の時間をもう少しおもしろく使いたい方に、まず候補に入れてほしい一冊です。
参考資料
情報確認日:2026年7月7日
