トリオ左近山(横浜市旭区)でのチャレンジを、(株)Goldilocksの川路武さん、小山晴也さんに聞く
イギリスの童話「ゴルディロックスと3匹の熊」に因んだ“Goldilocks=ちょうど良い”という言葉を名称に据えた会社があります。(株)Goldilocksは元三井不動産(株)の川路武さん(51才)が2022年に立ち上げた会社です。『半径100mの人と人をつなぐ』をミッションに掲げ、“ちょうどよい距離感”でリアルに人と人がつながる仕掛けを事業化することに挑戦しています。
Goldilocksの事業のひとつにトリオ左近山があり、2025年度よりミドルシニアの地域参画に焦点を当てた活動を始めています。その事業を推進しているのは小山晴也さん(28才)。団地のコミュニティに関心があり、建築学の博士課程を休学して、トリオ左近山でのプロジェクトに取り組んでいます。
代表の川路さんに(株)Goldilocksの基本的な考え方をお聞きし、続いて、小山さんにトリオ左近山での取り組みについてお聞きしました。
目次
半径100mで人と人をつなぐことの大切さとは

まず、はじめに川路さんにお聞きします。 コミュニティに着目されたのは、どのような理由からなのでしょうか。
川路さん三井不動産に入社して、デベロッパーとしてまちづくりの領域に関わってきました。その経験の中で、空間や場所はそこを使う人たちのつながりによってそのパワーが左右される、つまり、活気があれば場所のポテンシャルがパワーアップするということを実感したんです。ワイワイと活気がある人たちが集会所を使っていると、活気のある活動が生み出されます。
それは、マンションに限らず、会社の場合も同じで、社員同士がつながってワイワイやっていれば、業績が上がるのです。
今の時代、SNSでつながることも可能です。なぜ、“半径100mでつなぐ”(=リアルでつなぐ)なのでしょうか。



近くの人とつながるということをどんどん排除してきて、隣同士よく知らないということが普通になっているこの現状は、人類史上なかったことだと思います。
確かに、Xで自分の趣味をつぶやけば、たくさんの人とつながれます。でも、逆転の発想というか、リアルのつながりでの解決するパワーのほうが大きいと考えています。ネット上で知り合っていても、リアルで会うことで信頼がもてるようになったという感覚は、ずっと残るはずです。それに、大きな地震がきたときにお水を分けてくれるのは、隣の人なんです。
都市(まち)において、人と人がリアルでつながる機能がほとんど失われた今現在だからこそ、『半径100mで人と人をつなぐ』ための仕掛けを発明したいなと考えています。


でも、一方で、リアルに人とつながることの面倒臭さもあると思うのですが。



そこはテクノロジーを活用して、いいとこ取りすればいいんじゃないかと思います。面倒くさい回覧板とか自治会費の徴収とかはテクノロジーに任せて、失われてしまったお隣さんとの会話を取り戻す。
別に仲良くならなくてもいいし、友だちにならなくてもいいけれども、隣はあの人だと認識して、目であいさつし合って、何かあった時には助け合うという距離感を保てばいいのです。
トリオ左近山がミドルシニア(50代、60代)に着目したワケ
トリオ左近山は、横浜市の実証実験の一環で運営する施設で、「左近山団地の元診療所を改修した、団地暮らしを面白くするラボ」(HPより)。シェアオフィスの運営とともに、「推し本の交換会」「団地散歩写真」など、左近山団地で人と人が楽しくつながるイベントの拠点として運営。


ここからは、小山さんを中心にしてお聞きします。
50代、60代のミドルシニアの地域参画に焦点を当てたのはどのような理由からだったのでしょうか。



Goldilocksでは、2023年からトリオ左近山の運営に着手しています。当初はミドルシニアということではなくて「地域と関わったほうがいい」あるいは「地域に関わりたい」と思っていても、何となく躊躇している人たちをトリオ左近山に引っ張り出そうと考えていました。
2年程やってみて、引っ張り出すということはある程度できたのですが、子育て世代や若い人のほうが引っ張り出しやすいということがわかってきました。



いろいろな調査データからも、今の50代、60代、特に仕事をしている男性は、地域との関わりへの意欲が著しく低いということが浮かび上がっています。
トリオ左近山の年度ごとの運営方針は、横浜市旭区とURと協力しながら決めていくのですが、せっかく実験的なことができる施設なのだから、どうせなら難しい課題に取り組もうという話になりました。それで、50代、60代のミドルシニアを地域に引っ張り出すという難しい課題を敢えて設定しました。
地域への参画意向が低いミドルシニアをわざわざ引っ張り出すことにどのような意義があるのでしょうか。



ひとつは、働くという局面です。
調査データでみると、60代前後の人は、仕事への満足度が最も低くなっており、仕事に貢献できているという実感ややりがいが得られていないのです。
その要因は、まずミドルシニアは、役職定年や再雇用のタイミングだということです。加えて、今のミドルシニアは、景気の良い時代を過ごした上の世代に比べ、年金受給の面で「厳しそうだ」「不安だ」と感じています。
また、自分たちより下の世代はデジタルにも慣れていますし、転職も視野に入れた働き方をしています。つまり、今のミドルシニアは、うまく逃げ切れそうな上の世代と、仕事への取り組み方が違う下の世代に挟まれて、居心地の悪い状態にあるのだと思います。
その結果、働くという局面でやりがいが得られにくくなっているわけです。でも、我々はミドルシニアにはもっとイキイキしてもらわなくてはと考えています。
もうひとつは、地縁組織という局面です。日本の地縁組織は、70代、80代が担っています。でも、その方たちがいなくなった後を引き継ぐのは誰かというと、今のミドルシニアなのです。ミドルシニアには、時間にゆとりができてきたタイミングで、地域にスムーズに参画してもらわなくてはなりません。
会社で仕事をしている状態から、やりがいをもってイキイキと地域と関わることに移行できる方法論が必要なのです。そこを今回の取り組みで開発していこうと考えています。
具体的な取り組み“セカスタ”とは


具体的にはどのようなことをおこなっているのですか。



50代、60代向け企画『住んでる地域でセカンドライフのスタートダッシュを切る2ヶ月プログラム』(セカスタ)を2025年7月~9月にかけておこないました。
“そろそろ退職が現実的に見えてきた方や、最近リタイアされた方、そういった方々が、早め早めの行動で少し先の暮らしをより良いものにするために、自分の得意なことを元に人とコミュニケーションを取れるようにする、そんなプログラム。
具体的には、オンラインスキルシェアでちょっとした稼ぎを得るところまで実践してみます。”ということを謳い文句に募集をし、全5回、19時から1時間のワークショップをおこないました。
この企画の狙いというか、ミドルシニアの方に身につけて欲しいことはどのようなことだったのでしょうか。



“ジョブクラフティング”(仕事の意義ややりがいを自ら創り出すアプローチ)を取り入れました。自分では意識できていないけれども、自分の中にある“人の役に立つスキル”を自覚するということです。
1期生の中に行政職員の方がいて、ご本人は「行政職員はスキルがなくて・・・」とおっしゃるんです。でも、スキルの棚卸をするワークショップの時に、その方は、議論をまとめるとか、役割をもって前に進めるとか、非常にスムーズにできるんです。例えば、地域でお祭りをする際に、そういうスキルをもった方がいるとスムーズに進められるわけです。こんな風に自分ができることを再発見して、それを人に伝えられるようにするということを目指しました。
セカスタをやってみて、どのような感触を得ていますか。



いろいろ改善点はあったのですが、手ごたえはありました。ただ、1期生というのは、そもそも感度が高くて、面白い人が集まってきます。でも、こちらが狙いたいのは、むしろ行動力がない人、現状に悩んでいない人なんです。そういう人たちにセカスタのやり方が合っているのかわかりませんし、そういう人たちにどのようにすれば情報が届くのかが悩みどころです。今まさに試行錯誤しているところです。
ミドルシニアはどのように地域とつながればいいのか


ミドルシニアが地域で活躍するというのは、どのようなイメージなのでしょうか。



本音を言うと「地域で起業してほしい」と思っているのですが、そこまでいかなくても、自分ができること、やりたいことを基に、地域とコミュニケーションをとって、地域で役割を得ていくというイメージです。そこをトリオ左近山がサポートできたらいいなと考えています。
この地域には、ミドルシニアが活躍する場所があるのですか。



活躍できる場所はあるにはあるのですが、それが収入につながるかというとそうでもないんです。そこが難しいところです。まずは、ボランタリーな活動からスタートするということを促しています。



例えば、人に何か教えてあげたり、得意な写真を撮ってあげたりしたら、謝礼がもらえた。それで食べていけないけれども、喜ばしいことですよね。
自分のスキルを上げたら、もっと謝礼がもらえるかもしれないと考えて、試行錯誤していく。それって商売の基本みたいなことで、会社勤めをしている人はそういうことに慣れていないと思うんです。トリオ左近山では、そういう部分の相談に乗れたらいいな、“得意”を生かしながら地域に関わる場をセットしていくことができるといいなと考えています。
地域でのボランティアでも地域での小さな起業でもいいのですが、地域には「あなたが人の役に立つ場所」があるということに気付いてほしいですね。
“地域の中で役立つ”という、収入を得るということと違う軸でのやりがいということでしょうか。



自分の生き方を考える時に、社会的価値(社会への貢献)という軸が入ってくると、“まち”はすごく豊かになるのではないかと考えています。
面白い事例があって、再雇用契約になった際に週4日勤務に設定して、週1日は先輩たちがやっているコミュニティカフェを手伝っている。収入にはならないけれども、地域での人脈や信頼を得ることができ、役割も徐々に増えていく。特に、自分の身体が弱った時のことを考えると、このリターンは大きな意味をもちます。
みんなが地域でそれぞれ役割をもっていれば、地域で何か課題が生まれた時に、みんなが考えを持ち寄って、それぞれが行動できる、そんな世界を目指したいと思っています。








■(株)Goldilocksについてはこちらから→ https://goldilocks.social
■トリオ左近山についてはこちらから→ https://kurashi.sakonyama-danchi.com/trio
<編集後記 >
都市部では、地域とのつながりが希薄になり、 “孤立”が大きな社会課題になってきています。とりわけ、シニアにとっては切実な問題です。そんな今だからこそ、ミドルシニアが“会社”から“地域”へと活躍の場をスムーズに移行できるような仕掛けづくりは、意義の大きいチャレンジです。一朝一夕にはいかないかもしれませんが、少しずつ前に進むことを期待しています。
それにしても(株)Goldilocksのホームページにある「つながりたくない人なんて、本当はいない。」という言葉は心に響きますね。 (取材・起稿 谷口明美)








